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16細胞期 −不等分裂−  
 
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[01] ホヤ初期発生過程において不等分裂は3回だけ起こる。8から16細胞期にかけてのB4.1割球の分裂,16から32細胞期にかけてのB5.2割球の分裂,32から64細胞期にかけてのB6.3割球の分裂の3回であり,どれも植物極の最も後方に位置する割球が,後ろ側に小さな割球を生み出すように不等分裂を行う。B6.3割球の分裂の結果生まれた後極に位置するB7.6割球はその後,初期発生過程では分裂を行わず,尾芽胚尾部の内胚葉索の細胞のひとつとなる。
不等分裂を行う割球
不等分裂を行う割球
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[02] このメカニズムを探るため,B4.1割球を単離し,さらに前側半分と後ろ側半分に切り分けた。核を含むどちらか一方だけがその後の分裂をおこなうことができるが,その分裂の様子を観察すると,前側の半分が分裂する際には必ず等分裂を行うが,逆に後ろ側の半分が分裂する際には,ほとんどが不等分裂を行う。このことは,不等分裂を起こすメカニズムが後ろ半分に含まれていることを示している。
B4.1割球における不等分裂のメカニズム
B4.1割球における不等分裂のメカニズム
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[03] 不等分裂の様子を詳しく調べるために,抗チューブリン抗体で16細胞期を染色してみると,B5.2割球の後極側から太い微小管の束が核に向かって伸びていることがわかる。このような微小管の束は他の割球では見られない。
B5.2割球における微小管の束
B5.2割球における微小管の束
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[04] さらに,界面活性剤を含む溶液に16細胞期の胚を浸けることで,卵黄などの細胞内容物を抽出することができる。そうした抽出胚の後極を見てみると,米粒状のくっきりとした小さな構造があることがわかった。この構造が微小管の太い束の一端に位置している。後述するような理由により,我々はこの構造をCAB (Centrosome Attracting Body)と名付けた。
CAB (Centrosome Attraction Body)
CAB (Centrosome Attraction Body)
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[05] CABの部分を電子顕微鏡で観察すると,電子密度の高い構造であることが分かる。膜に包まれた構造ではなく,周囲にミトコンドリアが多く見られる。
CABの電子顕微鏡写真
CABの電子顕微鏡写真
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[06] ホヤ胚の不等分裂には,受精卵の植物極後ろ側の細胞質(VC)が重要な役割を担っていることが知られていた。例えば,卵のVCを切り取り,同一の卵の前側に移植する。その際,見分けがつくように切り取ったVCを青い生体染色色素で染めておく。すると,移植された胚は,もともとは前側だった青く染まった部分で不等分裂を起こし,前後が逆転してしまう。
VCの移植による不等分裂
VCの移植による不等分裂
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[07] VC除去胚においてCABと不等分裂との関連を調べてみた。 まず,VCを除去した胚の16細胞期を見てみると,不等分裂が起こらず,同じ大きさの割球がリング状に並んだ胚となる。こういった胚にはCABは観察されず,微小管の太い束も観察されない。
VCを除去した胚(16細胞期)
VCを除去した胚(16細胞期)
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[08] VC移植胚においてCABと不等分裂との関連を調べてみた。VCを正常な卵の前側に移植した胚の16細胞期を見てみると,胚の両側で不等分裂が起き,両方が後ろといった胚になる。この胚では,前側と後ろ側両方にCABが形成される。移植の都合によって,前側では右半分では不等分裂が,左半分では等分裂が起こってしまう場合が生ずる。この場合も不等分裂が起こったところにはCABがあり,等分裂が起こったところにはCABが存在しない。これらCABの有無と不等分裂の有無との相関性は,不等分裂へのCABの関与を強く示唆する。
VCを前面に移植した胚(16細胞期)
VCを前面に移植した胚(16細胞期)
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[09] 不等分裂を起こす際の細胞骨格の関与を調べるため,不等分裂が起こる直前に微小管の重合阻害剤であるノコダゾールとアクチン繊維の重合阻害剤であるサイトカラシンで処理した。ホヤ胚では不等分裂に先立ち,核が後極へと近づく。しかし,ノコダゾールで処理するとこの核の移動が見られないことから,微小管が核を後極に引き寄せる原動力であると考えられた。
核の後ろへの移動には微小管が必要
核の後ろへの移動には微小管が必要
核の後ろへの移動にはアクチンフィラメントは関係しない
核の後ろへの移動にはアクチンフィラメントは関係しない
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[10] 16細胞期のB4.2割球の切片を,チューブリンを緑色に,抗カイネシン抗体を用いてCABを赤色に抗体染色し,さらに核をDAPIで水色に染色した。核のすぐ側にある中心体から伸びた微小管の太い束がCABに向かって伸びているのがよくわかる。この微小管の働きで核がCABへ向かって引き寄せられているように見える。
CABに向かって伸びる微小管
CABに向かって伸びる微小管
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[11] これらの結果から,ホヤ胚後極における不等分裂の様子をまとめると次のようになる。前回の分裂が終了し,核が形成されると,その後ろ側にある中心体から太い微小管の束がCABに向かって形成される。この微小管の働きで核はCABへ向かって引き寄せられる。その後ろ側に片寄った核が分裂を開始し,後ろ側に片寄った分裂装置を形成することで,後ろ側が小さな割球となる不等分裂が起こる。
不等分裂メカニズムのモデル
不等分裂メカニズムのモデル
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