human and environment
生活排水対策
- 環境法・環境政策 - 大久保 規子
- 炊事、洗濯、入浴等、人の日常生活に伴い排出される生活排水は、近年、水質汚濁の主要な原因の1つとなっている。特に、内湾、内海、湖沼等の閉鎖水域では、窒素、リン等を含む物質の流入により、いわゆる富栄養化が進行している。
その対策として、多くの自治体は、生活排水対策推進要綱を策定し、啓発的措置や住民の努力義務について定めるにとどまっている。これに対し、大きな閉鎖水域を抱える自治体の中には、条例により、特定の家庭用品の使用・販売を禁止したり、合併浄化槽の設置を義務づける例もみられる。
- (1)水質汚濁防止法
1990年の改正により、水濁法に生活排水対策が初めて盛り込まれた(14の4ないし14の10)。だが、生活排水対策には住民意識の向上が必要であり、規制的手法はなじまないとの理由から、その内容は基本的に住民の啓発・指導に限られている。その他の点で注目されるのは、生活排水対策においては、市町村が最前線に立ち、都道府県はその総合的調整役であることを明らかにしたことである。
- (2)湖沼水質保全特別措置法
湖沼水質保全特別措置法によれば、都道府県知事は、湖沼の水質環境基準を保つため特に総合的な施策が必要な湖沼(指定湖沼)ごとに、湖沼水質保全計画を策定し、下水道やし尿処理施設整備等の水質保全対事業について定めるものとされている(同法4)。また、同法では、水濁法よりも規制対象施設が拡大され(同法14)、汚濁負荷量の総量規制も導入されている(同法23)。だが、一般家庭を含め、規制対象外の発生源に関しては必要な指導、助言及び勧告を行うとするにとどまっている(同法24)。
- (3)一般家庭内の処理設備に係る規制
生活排水のうち、トイレのし尿については、未処理で公共水域へ放流することが禁止されている(建築基準法31A、浄化槽法3@)。また、都市計画法上、一定規模以上の開発については、浄化槽の設置が義務づけられている(同法33@V、同法施行令26W)。さらに、下水道法は、下水道の供用が開始された地域の土地所有者に、下水を下水道に流入させるために必要な設備の設置を義務づけている(同法10)。しかし、下水道のない地域の一般家庭から、洗濯、炊事等に伴い排出される生活雑排水については、法的規制がなされていない。
- (4)その他の法律
水道水源法は、水道水源水域の水質を保全するため、下水道施設の整備等について定めている。また、瀬戸内海環境保全特別措置法は、富栄養化対策として、水濁法にいう特定施設の設置等に関する許可制やCODに係る総量規制を導入し、下水道施設の整備等を国及び自治体の努力義務としているが、一般家庭に対する具体的措置は定められていない。
- 以上のように、トイレのし尿を除き、生活排水に関する法律上の措置は、基本的に指導、助言等にとどまっている。確かに、例えば、調理くず、廃食油等の適正処理については、啓発的手法によらざるをえないであろう。しかし、生活排水による水質悪化が進行している地域では、今後、条例による何らかの規制的手法の導入が広がるものと予想される。
もっとも、生活排水対策について、水濁法は、工場の排出水の場合と異なり、上乗せ、横出し条例を認める確認的規定を設けていない。だが、これは、同法が規制的措置を定めていない以上、法律と条例の関係について疑念の余地が生じないと考えられたためであり、条例による生活排水規制は可能である。
具体的な規制内容としては、汚濁の原因となる製品の販売、使用等を規制する方法や、より環境負荷の少ない製品の使用又は汚濁削減設備の設置を義務づける方法等が考えられる。
例えば、1979年のいわゆる琵琶湖条例は、家庭用有リン洗剤の販売及び使用を禁止し、その実効性を罰則により担保している。また、最近では、岡山県の小島湖環境保全条例(1994年)が、ディスポーザーの販売及び使用禁止に係る努力義務を定め、違反販売業者に対する勧告、立入調査及び氏名の公表を定めている。さらに、滋賀県のいわゆる「みずすまし条例」は、住宅の新築等に際し、合併処理浄化槽の設置を義務づけている。
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