human and environment
5-3.フィードバック調節
- 環境ホルモン -  今井 佐金吾

 ホルモンの作用は血液中の濃度に依存することから、その濃度の過不足が生じると体の正常な状態が損なわれることになる。そこで、我々の体内にはホルモンの分泌量を調節するしくみがあり、極微量の領域(ホルモンの血液中の正常な濃度レベルは極めて低く、ng/mL〜pg/mL程度、つまり1ミリリットルの血液中に10億分の1グラムから1兆分の1グラム程度である)で常に一定に保たれている。


出典:「環境ホルモン戦略計画SPEED’98」環境庁環境保険部環境安全課、1998

 つまり、いろいろな内分秘腺から分泌されるホルモンが互いに影響しあって、それぞれの分泌量を調節しあっているのである。これを「フィ−ドバック調節」という。たとえば、下垂体から副腎皮質刺激ホルモンが分泌され、副腎皮質を刺激する。そうすると、副腎皮質から糖質コルチコイドという物質が分泌される。しかし、これが正常な生命活動に必要とする以上に分泌されるようになると、この糖質コルチコイドが脳の視床下部に働き、視床下部から下垂体へ、これ以上副腎皮質ホルモンを分泌するなと命令するホルモン(副腎皮質刺激ホルモンの分泌を抑制するホルモン)を分泌する。結果として糖質コルチコイドの産生がとまり、血液中の濃度が一定に保たれる。つまり、健康で正常な体の働きを維持するためのホメオスタシスを保つために、ホルモンは必要な時には迅速に分泌し、それぞれの役割を終えると減ったり、分解消滅したりするのである(可逆的な反応)。




例1)エストロジェン(女性ホルモン)の産生
 エストロジェンは主として卵巣で造られるが、そのためには、まず脳の視床下部から下垂体を刺激するホルモンが分泌される。刺激を受けた下垂体は卵巣にエストロジェンの産生を指令するホルモン(エストロジェン分泌促進ホルモン)を分泌し、卵巣でエストロジェンの産生が始まる。そして、エストロジェンの産生が過剰になったり必要がなくなると。視床下部から下垂体へエストロジェン分泌促進ホルモンを抑制するためのホルモンが分泌され、卵巣でのエストロジェンの産生が弱まったり、止まったりして恒常性を保つ。

例2)エネルギ−源としての糖質と恒常性
 食事で摂取した糖分は体内で分解されてブド−糖になる。これは腸管から吸収され、血液中に入って人間が生きていくために欠くことのできないエネルギ−源となる。従って、血液中のブド−糖濃度(血糖値)を一定に保つ必要がある。そこで、血糖値が上がる(血中のブド−糖が余る)と膵臓からインスリンが分泌され、ブド−糖をグリコ−ゲンに変えて、肝臓、脂肪や筋肉などに貯蔵する。ちなみに、このインスリンの分泌が不十分であるとグリコ−ゲンが合成できなくなり、エネルギ−源を貯蔵できなくなる。この状態が「糖尿病」である。
 一方、血糖値が下がる(血中のブド−糖が不足)とグルカゴンが分泌され、肝臓に貯蔵されているグリコ−ゲンを分解してブド−糖に戻し、血糖値を上昇させる。このインスリンとグルカゴンが絶妙に協力しあって、エネルギ−源となる血液中のブド−糖の濃度がコントロ−ルされ恒常性を保つのである。