human and environment
2-3. 精神環境破壊 - 精神病理 -
- 地球環境問題の解決に向けて - 谷口 文章
- A. 生理的レベル
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最近の日本の若年層では、食べ物の汚染、親子関係の過剰な一体化、水・大気の環境汚染、パソコン遊びと塾通いなど、現代文明の種々の要素が絡み合って学齢期の子どもの心身を蝕む、「学齢期症候群」という症状を引きおこしている。たとえば、小学校において一時間の授業が耐えられず教室でじっと座れない多動症の子がいる。また、重度のアレルギー症や子どもの成人病も増えている。さらに、現代社会のストレスが過食や拒食、小児肥満などの症状をおこしている。
このような症状が、神経的、生理的レベルで人格形成を不全のものにしていると思われる。
- B. 精神的レベル
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日本やアメリカでは、重大犯罪の低年化が問題となっている。これは、経済的富に支えられた成熟社会において、人格形成すなわちエゴ(自我)の確立が十分でない若者が増加していることに原因が求められよう。社会環境とりわけ家庭環境や人間関係の不成立が問題である。前者では母子一体化の家庭環境、後者では自己と他者の関係性の切断が問題である。
これらが、さらに精神病理の現象にも影響を及ぼし境界型人格障害( Borderline Personality Disorder )をおこしている。彼らは、性格的な安定感がないこと、自己同一性の障害、自己嫌悪、自殺念慮、むなしさ、見捨てられ感、離人症、衝動的強迫感などを抱き、感情・対人関係・自己概念に揺らぎがある。
母子一体化や対話の過剰な家庭環境、幼い頃からの自閉的な「自分の部屋」、ファミコンやバーチャル・リアリティの世界などは、適切な自他関係の基盤をつくり得ない。したがって、自我の確立によるアイデンティティが、いつまでも不成立なまま社会生活を送らざるを得ない。この意味で、軟弱な自我を守るために自己防衛にまず走ることになり、あえて自己の自閉的な世界に入ってくるものに対しては、「ムカ」つきながら、最後には凶器携帯によって自分を守る。その限界を越えたときには、容易に「キレ」て重大犯罪に移ることになる。
- C. 心身の生命力の衰退
- 社会環境の中でもとりわけ情報環境が、子どもの精神環境を汚染している。たとえば、コンピューターやファミコンの世界では、ゲームの中における勝ちか負け、即物的な生と死のピリオド(区切り)によって、現実の生のリアリティの喪失がはじまり、自己が虚構と現実の世界を浮遊することになる。つまり、このような自閉的なアイデンティティを有する若者は、自我が確立することがないままに、すべてのものに実感をもたない離人症的傾向をもつ。
そのような心の弱体化とともに、外出することのない身体の弱体化はいうまでもない。公共機関の電車の中で座り込んでいたり、あちこちのベンチで寝ころんでいる若者を最近見かけることが多くなった。まず、基礎体力が心身ともに問題である。こうして心身における生命力が衰退しているのが、現代人である。
さらに個人だけでなく、地域や企業や国も利益追求、自己利益という「エゴの病」に侵されているのが現代人であり、現代社会である。そして、このような世代が、未来の世代を考慮して、21世紀の「環境」意識に目覚めることは大変なことである。しかしながら、これからの世代は21世紀の地球と人間の環境を明るいものにするために、一人一人が出来ることから行動する目覚めた人であるべきであろう。
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