human and environment
1-2.環境問題解決の方策
- 環境教育とは -  鈴木 善次


環境問題解決の方策
      1.技術的対策(環境に配慮した技術の開発)
      2.社会・経済システムの改革(循環型社会の構築)
      3.市民意識の変革(環境教育・環境学習)


A. 技術的対策
 では,こうした環境問題を解決するのにはどうしたらよいか。まず,考えられるのが技術の改良である。これまで取り上げてきた環境問題の多くが科学技術の抱える問題によって生じている。たとえば,自動車の排気ガスによる大気汚染はその中に含まれる窒素酸化物などが原因となって生じているが,自動車を開発する側は「走る」という目的に主眼を置いており,使用した結果生じる「排気ガス」まではあまり考えない。開発初期はそれで済んでいた。しかし,使用台数が増え,コモンズ(共有空間)がそれに耐えきれなくなった。そうなると求められるのは有害なガスを出さない自動車,低公害車とか無公害車の開発である。最近では各メーカーによって電気自動車や電気モーターとガソリンエンジンの両者をのせたハイブリッド・カー、さらには水素ガス電池自動車などの開発が盛んになってきているが,まだコスト高のため,普及までには至っていない。とはいえ環境という視点だけでなく、石油資源の限界という面からもやがては交替となるであろう。

 また,ゴミ問題で注目されるのがプラスチック製品である。発明された当時は便利な物質として人々に歓迎されたが,使用済みになったとき土の中に埋めても現存するバクテリアやカビの仲間では分解できない。焼却すればいろいろな有害物質が排出される。最近ではダイオキシンの発生が問題になっている。科学者や技術者は土の中で分解するプラスチックの開発に向け研究を始めている。また,ペットボトルなどではリサイクル可能なように原料に戻す技術の開発も進められている。

 このように今の環境問題を技術の欠陥と位置づけ,欠陥を補う新たな技術の開発によって環境問題は解決できるという主張が見られる。確かに上記のようにその可能性はあるが,それがいつまで続くか。おそらくまた新たな環境問題が生じるであろうから,この立場には賛成できないという主張もある。



B. 法的規制と環境に配慮した社会・経済システムの構築
 環境にリスクを与えることを承知で実用化された技術がいかに多いことか。もちろん,実用化した後で気づく場合もある。そのようなときにはできるだけリスクを少なくするよう社会的規制をすることである。公害が厳しくなったとき我が国ではいろいろな公害対策の法律や条例(「公害対策基本法」など)がつくられた。その中に環境基準なるものがある。たとえば自動車の排気ガス中に含まれる窒素酸化物の濃度の上限として,初めは0.02ppmが定められ,自動車メーカーはそれを守る義務を課せられた。しかし,後には現行の0.04〜0.06ppmに緩和された。環境基準の設定には政治や経済が大きく影響していることを知る例である。

 ゴミ問題ではドイツの優れた先例がある。メーカー側に自分の会社が作った製品に関連して生じるゴミを回収する義務を課す法律を制定している。日本でも最近包装容器の回収を義務づける法律がつくられた。また、ダイオキシンや環境ホルモンに関しても環境基準が設けられる方向で検討が進められている。

 こうした法的規制や技術の改良による環境改善を実効あるものにするためには、環境に配慮した社会・経済システム、いわゆる持続可能な社会、循環型社会の確立が不可欠である。最近ではISO14000シリーズなど環境に配慮した企業づくりの動きも見られるようになっているが、まだ、循環型社会の構築のためには廃棄物を処理する技術の開発やそれに関わる企業の育成など課題は多い。



C. 人々の意識の変革 −教育−
 ところで、いくら環境に配慮した技術を開発しても,またいくら法的規制を設けても実際に生活している人々の意識が変わらなければ大した効果は望めない。先に紹介した自動車の場合にしても、またプラスチック製品にしても,これまで人々は環境にリスクを与えることを承知で便利さや快適さを求めて使用する傾向が強かった。一度味わった快適さや便利さはなかなか手放すことができないものである。そこには自分さえ良ければという自己中心的な意識が見え隠れする。その意識を変える必要があるのだが,そのためにはどうするか。多くの人々に今の自分たちの享受している生活スタイルがどのようなものであるのか,大きくは現代文明とはどのようなものなのかをじっくり見つめ,問い直すことの必要性を認識してもらう。そのための活動を展開することであり,その活動こそまさに環境教育(環境学習)なのである。